2025.05.15
相談員ブログ
脊椎カリエスについて
【脊椎カリエスとは】脊椎カリエス(せきついカリエス)は結核菌が背骨に感染し、骨や周辺の組織をゆっくり壊していく病気です。昔は珍しくありませんでしたが、医療の進歩によって一時は少なくなりました。しかし近年、高齢者を中心に再び増加傾向にあります。
「カリエス」とは本来虫歯のことですが、この病気では背骨の骨(椎骨)が腐ったように壊れていくため、この名前が使われています。正式には「脊椎結核」とも呼ばれ、骨の結核の一種です。
【原因と感染のメカニズム】
結核菌は通常、肺に感染して「肺結核」を起こします。ただし、体のほかの部分にも血液やリンパを通じて広がることがあります。その一つが背骨です。つまり、脊椎カリエスは肺結核などが元になって、背骨に波及して発症する病気なのです。
近年では、肺に症状が出ない潜在性結核感染が再活性化し、静かに脊椎に感染するケースもあり、本人も気づかないまま進行してしまうこともあります。
【高齢者に多い理由】
脊椎カリエスが高齢者に増えているのには、いくつかの理由があります。
・免疫力の低下:年齢とともに体の抵抗力が落ち、結核菌に対する防御力が弱まります。
・持病との関係:糖尿病、腎臓病、がんなどがあると結核にかかりやすくなります。
・結核の再活性化:若い頃に感染した結核菌が、年をとってから再び活動を始めることがあります。
高齢者は風邪や腰痛と見間違いやすく、受診が遅れて重症化することもあります。
【症状】
脊椎カリエスの初期症状は鈍い背中や腰の痛みです。動かすと痛むのではなく、安静時でも痛いのが特徴です。
進行すると以下のような症状が出ます。
・微熱が続く
・体重が減る、疲れやすい
・背中が曲がってくる(猫背や後湾)
・手足のしびれ、麻痺、歩行障害
・排尿・排便のコントロールが難しくなる
これらは、背骨の中を通る神経(脊髄)が圧迫されることで起こります。特に高齢者はもともと骨が弱いため、骨折や変形が進行しやすく、神経障害を起こしやすいです。
【高齢者が脊椎カリエスになるとどうなるか】
高齢者が脊椎カリエスに罹ると、寝たきりのリスクが高くなります。以下のような悪循環に陥ることがあります。
①背中や腰の痛みで動けなくなる
②筋力が低下し、転倒・骨折のリスク増加
③神経障害により排泄が困難になる
④長期の入院や介護が必要になる
また、治療の過程で抗結核薬を長期にわたって服用する必要があるため、副作用や肝機能障害などにも注意が必要です。
【感染のリスクについて】
脊椎カリエスそのものは他人にうつることはありません。なぜなら、骨の中にいる結核菌が空気中に出ることはないからです。しかし、もしその人が肺結核も併発していた場合は話が別です。
肺結核の場合、咳やくしゃみによって空気中に菌が放出され、周囲に感染させる可能性があります。特に高齢者施設や病院など、集団生活の場では注意が必要です。
したがって、脊椎カリエスが見つかった場合には肺結核の検査も必ず行われます。
【診断と検査】
診断には以下の検査が使われます。
・X線(レントゲン)検査:骨の破壊や変形が見える
・MRI検査:神経への圧迫状態も把握できる
・血液検査:炎症の程度を調べる
・結核菌の検出検査:病変部の組織や膿から菌を確認する
高齢者では、腰椎圧迫骨折や変形性脊椎症との区別が難しいため、結核の可能性も頭に入れて調べることが重要です。
【治療法】
治療の基本は抗結核薬の長期服用です。6か月~1年以上にわたって、複数の薬を組み合わせて使います。途中でやめてしまうと再発や耐性菌のリスクが高くなります。
加えて、以下の治療も行われることがあります。
・コルセットや装具で背骨を支える
・安静療法で骨の修復を助ける
・手術(神経の圧迫がひどい場合や、骨の破壊・不安定性、膿瘍の形成がみられる場合)
高齢者では、体力や持病の状態を見ながら慎重に治療計画を立てる必要があります。
【回復の見通し】
早期に診断・治療ができれば脊椎カリエスは治る病気です。ただし、背骨の変形や神経症状が残ることもあるため、早めの受診と治療開始が何より大切です。
特に高齢者では、「ただの腰痛」と思ってしまい、治療が遅れるケースが多くみられます。
背中の痛みが長引くときには、「脊椎カリエス」も疑ってみることが重要です。早期発見・早期治療が、健康な生活を取り戻す第一歩となります。