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2025.10.10
相談員ブログ

なぜ歳を取ると涙もろくなるのか

【なぜ歳をとると涙腺がゆるむのか】
歳を重ねると、なぜか涙腺がゆるみ、感動的な映画やテレビドラマはもちろん、何気ない日常の風景や人々の優しさに触れただけで、涙が込み上げてくることがあります。この「加齢による涙もろさ」は、単なる気のせいではなく、脳、心、そして体の3つの側面で起こる変化が複雑に絡み合って生じる、ごく自然な現象です。
ここでは、その具体的なメカニズムについて、科学的・医学的な視点から、さらに詳しく掘り下げて解説します。

【脳機能の変化】
加齢による涙もろさの最も中心的な原因は、脳の機能の変化にあります。特に、感情や行動の抑制を司る「前頭葉」の働きが、年齢とともに低下することが知られています。
前頭葉にある「背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」は、理性的な判断や感情の制御を行う、いわば脳の司令塔です。この部位の機能が加齢によって弱まることで、喜びや悲しみといった感情を抑え込む力が低下します。これは、長年使い続けたブレーキが少しずつ効きにくくなるようなものです。結果として、若い頃には抑えられたはずの感情がストレートに表出されやすくなり、些細な出来事でも涙がこぼれやすくなるのです。これは「感受性が豊かになった」というよりも、脳の老化に伴う生理的変化によるものです。

【人生経験と共感力】
長い人生で積み重ねてきた経験は、他者や物語に対する共感力を飛躍的に高めます。
例えば、映画の主人公が困難を乗り越える姿を見て涙するのは、それが単なるフィクションではなく、自分自身の過去の苦労や努力を思い出させるからです。豊富な人生経験は、他人の喜びや悲しみ、挫折や成功に自分自身の過去を重ね合わせやすくします。これにより、物語の登場人物やニュースの出来事により深く感情移入し、感動が涙につながりやすくなります。これは経験がもたらす心の成熟であり、感情の揺れ幅を広げる重要な要因となります。この「共感の強まり」と、それに伴う「自己の回想」というシナジー効果が、涙もろさを一層加速させるのです。

【涙のメカニズムの変化】
涙もろさには、涙を分泌・排出する身体的なメカニズムの変化も関わっています。

・涙腺機能の低下と涙の質の変化
加齢により、涙腺の組織が萎縮し、分泌される涙の量が減少します。涙には目を潤すだけではなく、表面を保護し、異物を除去する役割がありますが、この機能が低下し、いわゆるドライアイになりやすくなります。また、涙の蒸発を防ぐための油分を分泌するマイボーム腺の機能も低下するため、涙の質的なバランスが崩れ、目の不快感を引き起こしやすくなります。
・涙の排出経路の変化
一方、涙を排出する鼻涙管(びるいかん)は加齢とともに狭くなったり、詰まったりすることがあります。このため、分泌される涙の量が少なくても、目から涙が溢れやすくなる「流涙症」を引き起こすことがあります。涙が溢れても排出されないため、目に涙がたまりやすくなります。
・まぶたや目の周りの構造変化
まぶたの筋肉や眼球を覆う結膜(白目の表面)も、年齢とともに弾力を失い緩んできます。これにより、涙が目にたまりやすくなったり、せっかく涙を拭いてもまたすぐに溢れてきたりと、物理的な要因も涙もろさを助長します。

これらの目の加齢変化が、感情の変化と相まって、より涙が出やすい状態を作り出しているのです。

【精神的・社会的要因と病気の可能性】
加齢に伴う涙もろさには、精神的・社会的な要因も影響します。
退職、子どもの独立、配偶者との関係の変化など、人生の大きな転機は、心に大きなストレスをもたらすことがあります。また、日々の疲労や睡眠不足、加齢や更年期によるホルモンバランスの変動なども、感情のコントロール力を低下させ、涙を流しやすくする一因です。
ほとんどの場合、加齢による涙もろさは自然な生理現象ですが、中には注意が必要なケースもあります。極端に涙もろくなった、あるいは涙もろさに加えて性格や行動に著しい変化が見られる場合は、「感情失禁」といった脳血管障害や認知症などの疾患が潜んでいる可能性も考慮されます。このような症状が現れた場合は神経内科などの専門医による診断・治療が必要です。
加齢による涙もろさは、脳機能の変化、豊かな人生経験、そして身体的な老化が複合的に作用する、ごく自然な現象です。こうした変化を理解し受け入れることで、感情をより豊かに表現できるようになるかもしれません。涙を通じて心が癒されたり、他者との絆を深めたりと、涙がもたらすポジティブな側面も沢山あります。
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