2025.11.10
相談員ブログ
CRE(カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)について
【CREとは】CRE(Carbapenem-Resistant Enterobacterales:カルバペネム耐性腸内細菌目細菌)とは、強力な抗生物質であるカルバペネム系薬が効きにくくなった腸内細菌のグループです。医療・介護の現場では、感染対策上、特に注意すべき耐性細菌の一つとして知られています。
[どんな細菌の仲間なのか]
CREは、「腸内細菌目」に属しており、大腸菌や肺炎桿菌(はいえんかんきん)など、健康な人の腸内にも存在する常在菌の仲間です。通常は悪さをしませんが、体の抵抗力(免疫力)が低下したときや、抗生物質の長期・不適切な使用によってバランスが崩れると、感染症を引き起こすことがあります。
[「最後の切り札」が効きにくい耐性]
CREが厄介とされる最大の理由は、その抗菌薬耐性です。
・カルバペネム系薬とは:多くの抗生物質が効かない重い感染症に使われる、「最後の切り札」と呼ばれる非常に強力な抗生物質です。
・多剤耐性の問題:CREは、カルバペネム系薬に耐性を持つだけでなく、「カルバぺネマーゼ」という薬を分解する酵素を作り出す場合があります。この酵素を持つ菌では、他の多くの抗生物質も効きにくくなる「多剤耐性」の性質を示すことが多く、治療の選択肢が限られてしまいます。
[感染経路]
CREは、主に医療機関や介護施設などで接触によって広がることが知られています。
・人から人へ:感染者や保菌者の便などに含まれる菌が、手を介して他の人にうつる。
・物を介して:医療器具、ベッド柵、トイレ、手すりなど、菌が付着した環境表面を介して広がる。
【CRE感染症が起こりやすい部位と症状】
CREは、抵抗力が低下した人や、カテーテル挿入など医療的処置を受けている人に感染しやすい傾向があります。菌が体内で増加して症状が出た状態を「CRE感染症」と呼びます。
[肺(肺炎)]
肺に感染が起こると肺炎を発症します。主な症状は、咳や発熱、呼吸困難状態で、ときには膿のような色の痰が出ることがあります。特に、抵抗力が落ちた高齢者や、誤嚥のリスクがある方に注意が必要です。
[尿路(尿路感染症)]
腎臓、膀胱、尿道といった尿の通り道に感染が起こると、尿路感染症になります。症状としては、排尿時の痛み、頻繁にトイレに行きたくなる(頻尿)、血尿、そして高熱が出ることがあります。尿を出すための管(尿道カテーテル)を使用している人に起こりやすい感染症です。
[手術部位や傷口]
手術後の傷口や、外傷などの創部(傷のある部位)に感染が起こると、その部位が腫れたり、痛みが生じたり、膿が出たりします。
[血液(敗血症:全身感染症)]
CREが血液中に入り込み、全身に広がる状態を敗血症(はいけつしょう)と呼びます。これは生命に関わる危険な状態で、急激な高熱や悪寒、意識の障害、そして血圧の急激な低下などが起こり、多臓器不全に陥る危険性があります。
※保菌者と感染症の違い
症状がなく、菌を持っているだけの人は「保菌者」です。この場合は原則として治療の必要はありません。一方、熱や痛みなどの症状が出ている状態が「CRE感染症」であり、速やかな医療機関での治療が必要です。
【CRE感染症の治療法】
CREは非常に強い耐性を持つため治療が難しいですが、以下のような対応が行われます。
[効く抗生物質を探す]
菌の性質を詳しく調べ、効果のある抗生物質を特定します。ごく限られた薬しか効かないため、必要に応じて複数の薬を組み合わせて慎重に使用します。これらの薬は副作用も強いため、厳密な管理のもとで使われます。
[体の抵抗力を高めるケア]
感染部位の排膿、十分な栄養管理、全身状態の改善などにより、患者自身の免疫力を高めて回復を促します。
[保菌者の場合は原則治療なし]
症状のない保菌者に対しては、原則として抗生物質による治療は行いません。不必要な抗性物質の使用は耐性菌のさらなる増加を招くためです。代わりに、健康管理と感染拡大防止が重視されます。
【介護施設入居について】
CREの保菌者や感染者は、介護施設の入居を断られるケースがあります。これは、感染拡大を防ぐためのリスク管理が理由です。
[入居を断られやすい理由]
・感染拡大のリスク管理が困難:認知症などで隔離が難しく、施設内を歩き回る可能性がある場合や、菌を体の外に出す量(排菌量)が多く感染リスクが高いと判断される場合。
・施設の体制不足:スタッフの人数や感染対策の知識が不十分で、適切なケアを提供しきれない場合。
・介護負担の増加:CREへの対策には、特別な手順(防護具の使用など)が必要で、スタッフの業務負担が増えるため。
[法律上の考え方]
介護保険法上は、「保菌者であることだけを理由に、一律に入居を拒否してはならない(応諾義務)」とされています。しかし、実際には施設の感染管理体制や他の入居者の状況を考慮し、施設側と家族・医療機関との個別調整や慎重な話し合いが必要になる場合が多いです。
【介護施設での感染対策】
CREの感染拡大を防ぎ、全ての入居者とスタッフの安全を守るために、以下の対策が欠かせません。
・手指衛生の徹底:最も重要な対策。スタッフと入居者の手洗いやアルコール消毒を定められたタイミングで必ず行う。
・標準予防策の実施:すべての入居者の体液に感染の可能性があるものとして扱う。体液に触れる可能性がある介助時には、手袋、エプロン(ガウン)、マスクなどを適切に着用する。
・隔離(ゾーニング)の徹底:保菌者や感染者は、可能な限り個室対応とし、他の入居者への菌の広がり(交差感染)を防ぐ。
・環境整備と消毒:トイレや手が触れる場所の清掃や消毒を適切に行い、医療器具の共有を避ける。
・スタッフ教育と連携:感染症に関する正しい知識を持つための継続的な教育と、感染が疑われる場合は医療機関や保健所と迅速に連携する。