2026.03.05
相談員ブログ
「介護と医療」のボーダーライン:介護スタッフができること・できないこと
高齢化が進む現代、家族の介護や将来の備えとして「介護スタッフがどこまでできるのか」を知っておくことは非常に重要です。実は、介護現場には「やっていいこと」と「絶対にしてはいけないこと」の明確な境界線があります。「ついでにやってもらいたい」と思うような日常的な動作の中にも、実は法律で禁じられた「医療行為」が隠れています。その境界線をお伝えします。
【何故介護スタッフに「できるないこと」があるのか?】
結論からいうと、「医学的な判断」を伴う行為は、医師や看護師などの免許を持つ人しかできないと法律で決まっているからです。
一見簡単そうに見える操作でも、体の内部に影響を及ぼしたり、判断を誤ると命に関わったりするものは、すべて医療行為とみなされます。これは利用者の安全を最優先に守るための、厳格なルールなのです。
【「血圧測定」や「目薬」にもNGパターンがある】
健康管理の基本である血圧測定や目薬。実は、道具や「判断」の有無によって、医療か介護かが分かれます。
[血圧測定]
自動血圧計で測り、数値を記憶して報告することはOKです。しかし、聴診器を使い腕に帯(カフ)を巻いて心音を聞きながら測る(コロトコフ法)のはNGです。音を聞き取るには医学的な評価が必要なためです。また、数値を見て「薬を増やしましょう」と指示することもできません。
[目薬]
医師から処方された薬を、決められた回数・方法でさすお手伝いはOKです。しかし、市販の目薬を自己判断で選んで使ったり、目の状態を見て回数を増やしたりすることはできません。
【「湿布・軟膏・爪切り」日常ケアの分かれ道】
日常的なお手入れも、お肌や爪の状態によって境界線が変わります。
[湿布や軟膏]
あらかじめ医師から指示された薬を、決められた場所に塗布する「補助」はOKです。しかし、「傷がひどそうだから薬を変えよう」といった独自の判断は許されません。
[爪切り]
健康な方の爪を切りヤスリで整えるのは介護の範囲です。しかし、重度の巻き爪や、糖尿病などの方への爪切りは医療行為になります。糖尿病の方は、わずかな傷が原因で足が壊死してしまうリスクがあるため、専門の医療知識が必要とされるのです。
【体の中に触れる「管(カテーテル)」や「排泄」のケア】
体の内部につながる器具については、特に厳しい制限があります。
[人工肛門(ストマ)や尿バルーン]
溜まった排泄物を捨てたり、周囲を清潔に保つ「ルーティンのお手伝い」はOKです。しかし、管を抜き刺ししたり、ストマを洗浄したり、皮膚の炎症を見て治療の判断をしたりすることはできません。
[便秘への対処(坐薬と摘便)]
状態が安定している方に指示通りの坐薬を入れるのはOKですが、指を直接入れて便をかき出す「摘便(てきべん)」は、腸を傷つけるリスクがあるため、介護スタッフは行えません。
【絶対にしてはいけない行為】
たとえ家族から頼まれても、介護職が絶対に行ってはいけない代表例がこちらです。これらは無資格で行うと医師法・看護師法違反となり、処分の対象にもなる重大なルールです。
・注射・点滴・採血:インスリン注射も含まれます。
・カテーテルの挿入・交換:尿の管などを入れる行為です。
・医療機器の設定変更:「息苦しそうだから」と在宅酸素のダイヤルを回して流量を変えることは、たとえ簡単な操作であっても「医学的な判断」が必要なため、厳禁です。
【条件付きで認められる「特定行為」とは?】
本来は医療行為ですが、「特定行為研修」を修了し、登録を受けた介護スタッフに限り、認められるケアがあります。
・たんの吸引: 口の中、鼻の中、気管カニューレ内部。
・経管栄養: 胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養。
これらは誰でもできるわけではなく、医師の指示や看護師との連携体制が整った環境で、登録されたスタッフのみが行える特別な処置です。
【安全なケアは「役割分担」から】
介護スタッフは「生活支援のプロ」、医療職は「治療のプロ」です。 現場でスタッフが「それはできません」と断る場合、それは不親切からではなく、「利用者の命を守る」という法的な責任を果たしているからに他なりません。
「介護」と「医療」がそれぞれの役割を守り、密に連携すること。それが、高齢者の方々が安心して毎日を過ごすための、最大の安全装置になっているのです。