2026.04.06
相談員ブログ
認知症の「物盗られ妄想」とは?原因・対応・介護者の接し方
【物盗られ妄想とは何か】認知症の症状のひとつに、「物盗られ妄想」と呼ばれるものがあります。自分の持ち物が見当たらないとき、単に「失くした」と思うのではなく、「誰かに盗られた」と強く思い込んでしまう状態を指します。
実際には、しまい忘れや置き忘れが原因であることがほとんどですが、本人にとっては「盗られた」という確実な実感があるため、単なる勘違いとは異なります。これは認知症に伴うBPSD(行動・心理症状)の一つであり、多くのご家庭や介護現場でみられる症状です。
【なぜ起こるのか】
物盗られ妄想の背景には、主に以下の要因が絡み合っています。
・記憶障害: 「自分でしまった」という記憶そのものが抜け落ちてしまうため、目の前から物が消えたという事実だけが残ります。
・見当識障害: 時間や場所の感覚が曖昧になり、「さっきまでここにあった」といった状況を正しく整理できなくなります。
・心理的不安と自尊心: 「大切なものを失う」という恐怖や、物忘れが増えたことへの自信喪失が、「自分ではなく誰かのせいにしたい」という心の防衛本能(無意識のメカニズム)として、周囲への攻撃性に変わることがあります。
【誰を疑うのか】
物盗られ妄想では、「一番身近で、信頼している人」が疑われやすいという皮肉な傾向があります。
特に同居している家族や、支えている介護職員が対象になりがちです。「いつも近くにいて、物に触れる機会がある人」だからこそ、疑いの矛先が向きやすいのです。これは信頼関係の問題ではなく、「それだけ頼りにされている証拠」という側面もあります。
【本人の中では「事実」である】
周囲から見れば明らかな思い違いでも、本人の中では真実です。
「そんなはずはない」「さっき自分でそこに置いていたよ」と正論で否定しても、納得してもらえることはほぼありません。むしろ否定されることで「自分をだまそうとしている」と孤独感や不信感を強め、関係が悪化する原因になります。
【やってはいけない対応】
・頭ごなしの否定: 「盗っていない!」と強く言い返すと、本人の不信感に火を注ぎます。
・論理的な説得: 「鍵がかかっていたから泥棒は入れない」といった理屈は、認知機能が低下している状態では受け入れられにくく、逆効果になることが多いです。
・感情的な反論: 濡れ衣を着せられて怒ることは自然な感情ですが、ぶつかり合うほどに妄想は強固になってしまいます。
【有効な対応のポイント】
基本は「否定しない」「安心させる」「一緒に探す」の3ステップです。
1.感情に共感する: 「それは困りましたね」「大事なものがなくて心配ですね」と、まずは本人の不安な気持ちに寄り添います。
2.一緒に探す: 「一緒に探してみましょう」と声をかけ、一緒に探すポーズをとります。このとき、介護者が先に見つけてしまうと「隠していたのを出した」と思われることがあるため、「本人が見つけられるように誘導する」のがコツです。
3.環境を整える:
・通帳や印鑑などは、本人が納得する形で一緒に保管場所を決める。
・同じ財布やカバンを予備で用意しておく。
・「探し物が見つかりやすい部屋」に整理する。
【介護する側の負担と向き合い方】
「泥棒扱い」をされることは、介護者にとって最も心が折れやすい瞬間の一つです。
「あんなに尽くしているのに」と悲しくなるのは当然ですが、これは認知症が言わせている言葉であり、本当の評価ではありません。
物盗られ妄想は、本人の不安の裏返しです。
正しさを争うのではなく、「不安を解消する」ことに視点を切り替えることで、お互いのストレスを軽減できます。「否定せず、安心を届ける」という基本を大切にしながら、周りのサポートを頼って無理のない介護を続けていきましょう。