2026.05.26
相談員ブログ
「例外給付」とは何か‐介護保険にもある、“原則だけでは割り切れない現実”
介護保険には、さまざまなルールがあります。けれど実際の介護の現場では、決められた原則だけでは対応しきれない場面が少なくありません。
そんな時に登場するのが「例外給付」という仕組みです。
あまり耳馴染みのない言葉ですが、これは「基本のルールから外れるけれど、本当に必要だから特別に保険を使いましょう」と認められる枠組みです。
この仕組みを知ると、介護保険が単に「できる」「できない」を機械的に線引きする冷たい制度ではなく、実際の暮らしに合わせて柔軟に動いていることが見えてきます。
【介護保険には「原則としてレンタルできないもの」がある】
介護保険では、市区町村から認定された「要介護度」に応じて、使えるサービスやレンタルできる福祉用具が決まっています。
たとえば、介護ベッドや車いす(電動車いすを含む)などがその代表です。
これらは、要支援1・2や要介護1といった「比較的、体が動く(軽度とされる)人」の場合、「原則として介護保険ではレンタルできないことになっています。
国が限られた財源で制度を運営しているため、「まだ自力で動けるステップの人には、介護ベッドや車いすの必要性は高くないはず」という、大まかな目安を設けているからです。
【でも、病気や暮らしの現実はもっと複雑です】
ところが、実際の高齢者の暮らしは、介護度の数字ほど単純ではありません。
同じ「要介護1」であっても、人によって直面している困りごとは全く違うからです。
たとえば、次のようなケースがあります。
・パーキンソン病などの人
日中薬が効いている時間は元気に歩けますが、薬が切れた時間は、体が固まってしまい一歩も歩けなくこともあります。
・心臓や呼吸器の病気の人
歩くことはできても、少しの動作で息が苦しくなり、平らな布団で横になると呼吸が苦しくて眠ることが困難な場合もあります。
・足腰の病気で、著しく筋力が落ちている人
普通の車いすを自分でこぐ力はありませんが、電動車いすがあれば、誰の手も借りずに買い物や通院ができます。
このように、介護度の数字だけを見れば「まだ軽い」とされるような人であっても、病気の特性や実際の生活環境をみると、介護ベッドや電動車いすが「命綱」のように欠かせないケースがあるのです。
こうした「原則のルール」と「目の前の現実」のズレを埋めるために用意されているのが、例外給付です。
【「例外」だけど、わがままを通すわけではない】
「例外」と聞くと、何か特別な人だけが優遇されているように感じるかもしれません。
しかし、これは決して「言ったもの勝ち」で認められるわがままではありません。
本人がどれだけ困っているか、なぜそれが必要なのかを、担当のケアマネジャーがしっかりと確認します。さらに、医師から「この病気の症状には、この用具がどうしても必要だ」という医学的な意見をもらい、市区町村が認めて初めて、例外としてレンタルできるようになります。
つまり、制度は介護度だけで人を見ているわけではありません。
「本当に困っている理由」がはっきりしていれば、それを救い上げるためのルートが最初から用意されているのです。
【「介護の困りごと」は介護度では測りきれない】
介護保険を前提にすると、どうしても「要介護1だから、ここまでしかできない」「要介護3だから大変だ」という介護度に目が行きがちです。
けれど実際の現場では、要介護1でも病気の症状に波があって生活がとても大変な人がいますし、逆に要介護3でも状態が落ち着いて穏やかに暮らしている人もいます。
必要なサポートは、介護度の重さだけでなく、病気に種類、住んでいる家の環境、近くに手伝ってくれる家族がいるかどうかで、大きく変わるからです。
例外給付は、こうした「介護度だけでは見えにくい、一人ひとりの困りごと」を取りこぼさないための、大切なセーフティネットといえます。
【制度は、意外と「人を見ている」】
介護保険は、ときに「細かいルールが多くて、融通がきかない制度」と思われがちです。
確かに公平に運営するための硬いルールはあります。けれど、ただ機械的に線を引いて終わりではありません。
その人がどんな病気を抱え、どこに困りごとがあり、どんな道具があれば安全に、自分らしく過ごせるのか。
「例外給付」という言葉の裏には、“介護が必要な理由は、一人ひとり違う”という、制度が持つ本来の温かさと、現場のリアルな事情が隠されているのです。