2015.05.09
介護ニュース
「世界初!高齢者の水頭症に有用な『L-Pシャント術』って何?」
近年急激に増加しており、社会問題ともなりつつある「認知症」。厚生労働省の調査によると、65歳以上の7人に1人、約465万人が認知症を発症しているといいます。その認知症の原因の一つとして、「突発性正常圧水頭症」という病気があります。水頭症とは、頭の中の体液(脳脊髄液)が何らかの原因で吸収が悪くなり、過剰な体液が頭の中に溜まってしまい、脳を圧迫することで症状が出てくる病気です。その中で、体液の圧力が正常範囲の病態を「正常圧水頭症」呼びますが、とくに高齢者において先行する疾患がなく、徐々に進行する正常圧水頭症を「突発性正常圧水頭症」と呼んで区別しています。
症状としては、「歩行障害」「認知症」「尿失禁」の“3徴”が現れることが多いとされています。
「突発性正常圧水頭症」は、高齢者の1.1%に存在することが疫学研究の結果で明らかとなっており、頻度の多い疾患の一つです。にも関わらず、「突発性正常圧水頭症」に対する啓発は十分になされているとは言えず、見逃されている患者さんも多いと思われます。
水頭症の治療は、「正常圧水頭症」が初めて報告された1965年から、「V-P(脳室―腹腔)シャント術」(脳に管を挿入して体液を抜く手術)という治療法によって3徴が改善するとされていました。しかしじつは、本当に改善するのか否かを信頼性の高い研究で検証されたことはなかったそうです。
そんな中、東北大学大学院医学系研究科の森悦郎教授、大阪大学大学院医学系研究科の数井裕光講師、順天堂大学医学部の宮嶋雅一先任准教授、洛和会音羽病院正常圧水頭症センターの石川正恒センター長らのグループが、全国20施設との多施設共同臨床試験により、「突発性正常水頭症」に対する「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」の有用性を、世界で初めて立証しました。
研究は、まず93名の患者さんを登録し、すぐに「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」を受ける群(早期群49名)と、プログラムに沿った体操をしながら3ヶ月待った後に「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」を受ける群(待機群44名)に分け、登録時点からの症状の変化を比較しました。その結果、日常生活活動の自立度に改善を認めた患者さんは、早期群で49名中32名、待機群では44名中2名。一刻も早く「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」を受けたほうが、より「突発性正常圧水頭症」の改善につながることが明らかとなりました。また、早期軍にのみ、歩行障害・認知症・尿失禁の“3徴”の改善が認められるなど、両群で大きな差が認められました。
どういうことかいうと、従来の主流であった「V-P(脳室―腹腔)シャント術」と呼ばれる治療は、脳の中にチューブを挿入するため、脳を傷つけてしまう恐れがありました。これに対し、「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」は、腹腔から腰椎へチューブを挿入するため、脳を傷つけません。脳室と脊髄はつながっているので、腰椎部分のくも膜下下腔から腹腔へ体液(脳脊髄液)を短絡させることで、脳室内の圧力を下げることができるのだそうです。したがって「L-P(腰椎―腹腔)シャント術」は、「腰部くも膜下腔腹腔脳脊髄液短絡術」とも呼ばれます。
このように、“脳を傷つけない”治療法である「L-Pシャント術」の有用性が明確に示されたのは、世界で初めてだそうです。認知症の治療はまだまだ確立されているとは言い難く、今後の研究の進展が望まれますが、「L-Pシャント術」の有用性が認められたことで、認知症の研究も進み、いつまでも呆けることなく、元気に老後を過ごせるようになることを期待したいですね。